日本小児神経学会

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「子どものための福祉避難所」調査結果について

Last Update:2023年4月12日

2023 年 4 ⽉ 12⽇
⼀般社団法⼈ ⽇本⼩児神経学会

 子どものための福祉避難所1)開設について全国の特別支援学校2)に行ったアンケート調査結果をご案内いたします。

【調査目的】
 発達に障害のある子どもたち3)は、環境の変化に弱く、災害時には問題行動が目立ちやすくなります。また、医療的ケア児4)は人工呼吸器や吸引器5)など電源の確保が必要です。そのため、こうした災害弱者と言える子どもたちの家族は避難をためらいがちになります。障害のある子どもたちと家族が災害時でも安全に安心して避難できるよう、通い慣れた特別支援学校を子どものための福祉避難所として活用することが望ましいと本学会6)は考えています。特別支援学校の現状と教員の意向を知るため、2022 年夏に全国の特別支援学校1200 校にアンケート調査を行ない、489 校から回答を得ました。

【調査結果】
 158 校(32.3%)の特別支援学校が福祉避難所に指定され、そのうち子どものための福祉避難所は10 校(2.0%)のみでした。受け入れ対象は、在校生、卒業生、その家族、近隣住民でした。315校(64.4%)の特別支援学校が子どもの福祉避難所としての活用に賛成で、反対は15 校(3.1%)のみでした。特別支援学校が子どもの福祉避難所に指定されるメリットとして、避難者の安心感を412校(84.3%)、必要なケアの理解を294 校(60.1%)、避難者と顔見知りを212 校(43.4%)が挙げていました。問題点として、マンパワーと医療的ケアがそれぞれ340 校(69.5%)、発電設備が300 校(61.3%)と過半数に達し、他にスペース、救援物資の管理、冷暖房が多く挙げられました。避難の対
象者については、270 校(55.2%)が学校の種類別に、123 (25.2%)が種類別と関係ない受け入れを選択しました。また、237 校(48.5%)は対象となる子どもの家族の受け入れを認めていました。発達障害児の受け入れが困難な学校は2 校のみである一方、医療的ケア児の受け入れは、45 校で困難と考えられていました。

【調査結果の意義】
 今回の調査で、約3割の特別支援学校が福祉避難所に指定されていますが、子どものための福祉避難所はまだ非常に少ないことが明らかになりました。令和4年度全国特別支援学校長会の調査(回答数1052 校)でも福祉避難所の指定は28.2%ですので、本調査は概ね偏りなく全体を反映していると考えられます。災害対策基本法に基づく内閣府による福祉避難所の確保・運営ガイドライン(令和3年5月改訂)では、特別支援学校を指定福祉避難所とする場合の長所として、「特別支援学校の在校生やその家族などにとって、慣れ親しんでいる場所に避難することで安心感がもてることが想定される。障害種別に応じてバリアフリー化されている施設が多い。」と述べています。
 これは、特別支援学校を要配慮者7)すべてを対象とする一般の福祉避難所ではなく、子どものための福祉避難所とすることが望ましいことを意味します。特別支援学校を福祉避難所とする際の課題として、本調査でも明らかにされたように、「人材の確保や備蓄等について支援を行うことが必要」と述べられています。特別支援学校を障害種別に応じた在校生および卒業生とその家族のための福祉避難所に指定することで、避難者の殺到が避けられ、避難する人の数や、支援に必要な人材や備蓄を事前に把握し準備しやすくなります。一般の福祉避難所は全国に多数存在し、特別支援学校を子どものための福祉避難所に指定しても、それで困る対象外の要配慮者は少ないと考えられます。
 回答校の多くは、特別支援学校を子どものための福祉避難所とすることに前向きで、そのメリットとして避難者の安心感が最も多く挙げられました。前述したガイドラインでは、「平時の取組みなくして災害時の緊急対応を行うことは不可能である」と述べています。特別支援学校を子どものための福祉避難所とすることで、平時の取組みも行いやすくなります。今後は、子どものための福祉避難所の施設基準を作成して、建物の老朽化、自家発電、エアコン、物資の保管スペースなどに関しては、予算をつけて改善を図ること、また、医療的ケア児に関して看護師の配置や病院との連携が必要であり、マンパワーに関しては、各自治体からの応援が来ることなど事前に取り決めをしておくことが大切です。医療的ケア児で、急変しやすい子は病院に直接避難することも考えておく必要があります。また、個別避難計画を事前に作って、避難訓練をして何が必要か事前に調べておくことが大切です。
 災害時にも障害のある子どもたちが安全・安心に避難できるよう特別支援学校を子どものための福祉避難所に指定することが求められます。

なお、結果の詳細は後日、本学会機関誌「脳と発達」で公表されます。

【用語解説】
1) 福祉避難所 高齢者、障害者、乳幼児など一般の避難所での生活が困難で配慮を要する人たちが、災害が発生した場合に避難できる場所。令和元年10 月1 日時点で、災害対策基本法等で定める基準に適合する指定福祉避難所は8683 箇所、協定等により確保されている福祉
避難所は22078箇所ある。
2) 特別支援学校 障害のある幼児児童生徒に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けること目的とする学校。視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。)の5つの対象障害腫によって分かれていることが多い。
本校と分校を合わせ全国に1171校が存在する(令和4年度初等中等教育機関・専修学校・各種学校《報告書掲載集計》 学校調査・学校通信教育調査(高等学校) 特別支援学校
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?stat_infid=000032264889)。
3) 発達障害 生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態。平成16 年に発達障害者支援法が交付され、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習障害、チック症、吃音などが含まれる。
4) 医療的ケア児 人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為を受けることが、日常生活及び社会生活を営むために恒常的に不可欠である児童。
5) 吸引器 鼻や口の中にたまった液体を吸い出して取り除き、呼吸ができるようにするための装置。電動式と手動式がある。
6) 日本小児神経学会 1961 年に始まった子どもの発達や神経、筋肉に関する疾患を診療する医師と研究者の学術団体。日本医学会加盟。2022 年5 月1 日時点で、全都道府県と海外に、1281名の専門医を含む3869名の会員がいる。
7) 要配慮者 災害時において、高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する人たち

一般社団法人日本小児神経学会
理事長 加藤光広

【本件に関する問い合わせ先】
一般社団法人日本小児神経学会災害対策委員会
委員長 木村重美(きむらしげみ)
E-mail: jscn_fukushihinan★childneuro.jp
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