日本小児神経学会

会員専用ページログイン
Last Update:2022年12月16日

小児神経Q&A

Q80:自閉症について教えてください
⑦どのようにしつけたらよいでしょうか?

A先生からの回答

 育児の中でしつけは重要な位置を占めます。
しつけには、生活行動の手順を教えるという生活スキルと、善悪の判断や相手の嫌がることをしない、ルールを守るなどの社会スキルの2つの要素があります。自閉症をはじめとする発達障害のある子の共通の特徴は、概念理解の苦手さです。生活スキルと社会スキルを比べると、生活スキルは行動レベルの教育指導で対応出来ますが、社会スキルは概念の理解が出来ないと困難です。
 発達障害のある子どもに対する社会スキルの指導は容易ではありません。イメージ出来ない課題を指導する方法はなかなかみつけらないので、通常は叱責という方法をとらざるを得ませんし、これでは結果も期待できません。
 概念を教えたいけれども、概念が伝わらないときにはどのような指導が有効でしょうか?概念を概念として伝えるのではなく、概念を行動レベルにおとして伝える必要があります。 「○○してはいけません」は概念的な指示です。子どもたちの言い分は、「だったらどうしたらいいんだよ」です。この言い分は概念理解の苦手な子にとって真剣な質問です。
 残念ながらこんな発言をきくと多くの大人は、ムッとして反抗的な子と判断してしまいます。実は「どうしたらいい?」という問に対する答えが用意されてないから対応に困ってムッとするのです。強いて答えるとすれば「自分で考えろ」です。
 自分で考えられない(想像出来ない)のが発達障害の子の障害特徴です。行動レベルの対応は「○○してはいけません」ではなく、「□□してください」でしょう。
言葉だけでは伝わらないことが多いので、一緒にやってみる、お手本を示すことが有用です。
 そして、うまくできたときに本人が実感できるようにしっかりほめてあげることも大切です。
 

B先生からの回答

 「しつけ」について考えるのにあたって、まずは一見「しつけ」の対極にあるような「好きなことを好きなように好きなだけ」しないと気が済まない、という子供たちについて考えてみましょう。これは本当に「親のしつけがなっていない」ことが原因なのでしょうか?

 このような子供たちにたくさんお会いしてきた立場からいえば、これが「しつけ」が足りなかった結果であることはかなり稀です。むしろ厳しすぎる「しつけ」によって、毎日が苦手なこと、嫌いなこと、苦痛なことの連続になってしまっている人たちは、自分の外にあるものはすべてが嫌なもの、怖いもの、信じられないものになっていき、結局は自分の中の閉じた世界だけが安心できる場所になっていきがちです。このような人たちはむしろ「好きなことを好きなように好きなだけ」できないと、不安でいっぱいになってしまうのです。

 反対に、毎日の中に「楽しい」「できた」「得をした」という瞬間があふれている子供たちは、外の世界に対して肯定的な注目をすることを学んでいきます。そのような基礎があってはじめて、いつ、何を、どのように、どのくらいすればいいのか、どのような行動が最終的にいい結果につながるのか、という説明と経験、つまり「しつけ」を受け入れ、自分にとって役に立つ道具として身につけていくことが増えていくのです。

 このとき大切なのは、子供が理解できる形で、筋道立てて説明することです。発達水準に合わせて写真やイラストを使ったり、すらすらと読めるのであれば文字で書いてあげてもいいでしょう。そして、頭ごなしに一方的に「しつけ」たりするよりも、一緒に作戦会議をするつもりで伝えた方が、子供にすっと入っていくことが多くなるかもしれません。

 「しつけ」を成功させるコツは、そのハウツーよりも、むしろ「しつけ」以前の段階にあります。もし「しつけ」に悩んでいるのであれば、「しつけ」そのものではなく、その背景にある毎日を子供の視点から見直してみましょう。きっとそこにヒントがあるはずです。

2021年3月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会

このページの先頭へ