日本小児神経学会

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⑨-1 偏食にはどのように対応したらよいでしょうか?

小児神経Q&A

Q80:自閉症について教えてください
⑨-1 偏食にはどのように対応したらよいでしょうか?

A先生の回答
自閉スペクトラム症の偏食とその対応

はじめに

偏食は神経発達症の特性を持たない幼児にも少なくなく、大人になっても、これだけは食べられないといったものを2、3持つ人もまれではない。ただ、そのために、成長や日常生活に支障をきたすということはあまり経験しない。自閉スペクトラム症では偏食が目立つことが多く、さらに家族関係がむずかしくなったり、稀には極端な偏食による重大な栄養障害で合併症を起こすこともあったり、問題として取り上げなければならないこともある。

要因

  1. 感覚過敏
    嗅覚、味覚、触覚、視覚などの過敏に関連しての偏食。
  2. 食べ物の変化を受け入れにくい
    1とも関連するが、匂い、味、見た目、温度の変化に敏感でその変化を受け入れにくいための偏食。
  3. 食べ物へのこだわり
    1、2とも関連するが、こだわりやすく、決めつけやすい特性からくる偏食。
  4. 摂食嚥下の問題
    捕食や噛むことが下手、丸呑みする傾向、口に詰め込んだり溜め込んだりする傾向があり、特定のものが食べられないための偏食。
  5. 食べることに関するいやなフラッシュバックとの関連
    食べて痛かった、むせて苦しかった、怒られて嫌だった、など思い出しての偏食。
  6. 摂食障害
    偏食とはやや異なるが、神経性やせ症および回避・制限性食物摂取症で自閉スペクトラム症の割合が少なくないといわれているが、念頭に入れる必要がある。

以上は混合していることも多いが、何が偏食の主な要因としてあげられるかを検討することが、その対応を考えるうえで大切である。

経過

自閉症スペクトラム症の特性が強くない場合、多くは徐々に軽減する。また特性が強い場合でも、感覚の変化やこだわりの軽減、経験の蓄積などで軽減していくことが多い(多くは学童期に軽減)が、ときには、年齢が高くなって出現することもある。稀には、ビタミンA、B1、B12、C、葉酸、カルニチン欠乏などによる深刻な合併症が起こる。また、偏食を改善させようとする過程で、家族関係、対人関係などが悪化したり、心的外傷を起こし心身の状況に悪影響が残ってしまったりすることがあるので注意が必要である。

対応

前述の要因を分析して対応する。
さまざまな発達にバランスの良い栄養が重要な幼小児期では、摂食可能なもの、時には栄養食品、あるいは医薬品を使って必要な栄養を補いながら、少しずつ工夫して偏食を改善していく。親が作ったものなら食べられるということなら、通園場所にそれを持ち込んでもよいし、栄養が取れれば、食物が偏ってもよいと考える。味、形、感触を工夫する、少しずつ足していくなど偏食改善は焦らず少しずつ進めていく。苦手な食材を使って楽しく調理をしてみる、少しでもチャレンジ出来たらほめる、などもよい。いずれにしても食事時間は楽しくありたい。ABA(応用行動分析)、トークンエコノミーなどの療育技法も有効なことがある。また、子どもは変化をするものであるが、対応する側が子どもはそれを食べられないと決めつけてしまっていることもあり、注意が必要である。前述したが、強引すぎる偏食の直し方は、食べ物拒否を悪化させたり、その後、強引に食べさせられたその場面、食べ物そのものなどへのフラッシュバックを起こさせたりして、後の心身の状況に悪影響を及ぼすことがあるので避けたほうが良い。

事例

  1. 注意欠如多動症の特性もある自閉スペクトラム症 男児 2歳~6歳
    2歳4カ月で初診。上記診断で、生活指導、コミュニケーション指導を継続している。乳児期は人工乳が主でいやいや離乳食も食べていたが、2歳ころから思い通りにならないと癇癪を起こし、また、バナナと牛乳、スムージーしか食さなくなった。嗅覚過敏も目立っていたが、3歳から癇癪の軽減を目的に処方した抑肝散はヨーグルトに混ぜて服用できた。普通級に就学後、先生の理解があり、給食は無理せず食べられるものだけを食べていたが、ごはん、そうめん、枝豆が少し食べられるようになった。検査で亜鉛と鉄、フェリチンの低下があり、鉄剤と亜鉛を少量補給して、血色もよくなり活動量も増えた。社会性の発達や多動性の軽減も見られている。感覚過敏が要因として大きかったが、自身の発達と適切なかかわりで改善。
  2. 自閉症のある最重度知的発達症 女性 16歳~29歳
    幼児期に上記診断は受けており、情緒不安定性が強く、他院で抗精神病薬を処方されていた。当クリニックには16歳で初診したが、家族のかかわり方も適切とは言えず、情緒不安定で強いこだわりがあった。家では白いご飯しか食べず、高等部卒後通所している生活介護施設では他の食材も食していたが、25歳ころから、嘔吐することが多くなり、26歳ころ、通所施設でも突然食事をとらなくなった。一年に一度の血液検査で、Hb11-12g/dlくらいであったが、急速に貧血が進み(入院時Hb4.8g/dl)、汎血球減少もあり、総合病院で精査治療のため入院、ビタミンB12、葉酸、亜鉛の著しい低値が判明、栄養不足による巨赤芽球性貧血とされ、輸血、補充療法を含む治療により状態が改善、状態改善に従い、通所先では食事をとるようになった。不適切な環境と強いこだわりが偏食の要因と考えられたが、命にかかわる偏食であった。

まとめ

自閉スペクトラム症では、偏食になりやすい様々な要因があり、それらを思い浮かべながら対応する必要がある。偏食は改善していくことが多いが、子どもによっては、偏食が長引いたり、極端になり医療的対応が必要になったりすることもある。そのような場合を考慮し、必要な栄養が取れるような工夫や環境調整をする必要がある。ときには栄養食品や医薬品で補充したりしながら、無理せず少しずつ変化を促していくことが薦められる。

主な参考文献

1)高橋摩理,内海明美,大岡貴史,向井美恵.自閉症スペクトラム障害児の食事に関する問題の検討 第2報 偏食の実態と偏食に関する要因の検討.
日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌2012;16(2):175-81.
2)Skye Nandi Adams. Feeding and Swallowing in Autism Spectrum Disorders.
Neuropsychiatric Disease and Treatment 2022;18:2311-21.

2025年1月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会

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