日本小児神経学会

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Last Update:2019年5月13日

小児神経Q&A

Q69:注意欠如・多動症(ADHD)にはどの様な治療法がありますか?

 治療の基本はADHDの子どもたちが自分の特徴を理解し、状況にあった適切な行動が取れるようになることです。そのためには心理社会的治療と薬物療法が2本の柱となります。薬物療法はADHDのこどもが自分自身をコントロールできるように手助けをするために用います。「自分はやればできる」という自尊感情・自己評価の向上につながり、最終的には薬物の力を借りなくても自分で行動をコントロールできるようになることが目標です。

(1)心理社会的治療の主な考え方

  • 環境調整
    子どもに関わる保護者や教師など、関係者がその特徴を理解し、こどもが自分のとるべき行動を理解しやすいような対応ができるようにしていきます。
  • ペアレントトレーニング
    保護者が子どもの望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすための接し方や方法を学びます。
  • ソーシャルスキルトレーニング
    子どもたちが状況に応じた適切な行動が取れるように社会のマナーやルールを学び、対人関係を良好に保つことを学びます。状況を具体的にわかりやすく提示し、達成する喜びなどを得る方法として行動療法などが実施されます。

(2)薬物療法

  • メチルフェニデート塩酸塩徐放剤
     中枢神経を刺激して、脳内の神経伝達物質(ドパミン、ノルアドレナリン)の調節をすることで行動の問題が改善されます。OROS錠という特殊な徐放効果により、朝1回の服用で有効率は約70%と効果の高い薬剤として評価されています。中枢神経刺激薬であり、食欲低下などの副作用や発達期のこどもに使用する薬であるため、日本では2007年に小児ADHD適応が承認される際に、厳密に使用する目的で「適正流通管理委員会」が定められ、処方出来る医師と薬局が限られています。その厳密な制約効果もあり2013年から成人期のADHDも承認されています。
  • アトモキセチン
     ノルアドレナリン系に作用し、注意及び衝動制御の調節作用が得られる薬剤で、中枢神経刺激作用はなく依存の問題がないとされる薬剤です。2009年に小児ADHD、2013年に成人期ADHDの承認が得られ、4種類のカプセルと内用液があります。1日2回朝夕の服薬で1日を通して効果が期待される薬剤ですが、効果発現まで治療開始後4-6週間という時間がかかります。
  • グアンファシン塩酸塩徐放剤
     従来、本態性高血圧治療薬として使用されていたグアンファシン塩酸塩がノルアドレナリンα2A受容体に作用し、前頭皮質のシグナル伝達が増強されるという効果が考えられ、その徐放剤がADHD中核症状に対し約70%の有効性が認められ、2017年に小児ADHD治療薬として承認されました。眠気などの副作用の対策としても1日1回夜服用で有効性が期待されます。その作用機序から循環器系の副作用を防ぐためにも、治療開始前および増量時など血圧と心電図検査を行うことが必要です。

宮島 祐(東京家政大学子ども学部)2019年5月1日改変

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