日本小児神経学会

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Last Update:2019年7月4日

小児神経Q&A

Q34:脳性麻痺患者へのボツリヌス(ボトックス)治療の有効性について教えてください。

 ボトックス®とはボツリヌス毒素筋肉注射製剤の商品名です。その効果は、筋肉に注射すると、その筋肉へ入り込んでいる運動神経の末端に作用して、注射された筋肉のみを弛緩させることができます。筋肉自体への薬の影響はなく、運動神経の麻痺も4-6か月後には回復するため、治療の効果は一時的です。2010年から首や体幹だけでなく、手や足の痙縮も治療できるようになりました。
 例えば、軽症の歩ける幼児では、かかとを着かない、つま先歩きの傾向がみられれば、2-3歳から治療し、正しい歩行習慣に直します。つま先歩きが続けば、早いと4-5歳には足首が変形してしまうからです。同様に、手のひらを上に向けられず、自分の顔を上手に洗えない、あるいは親指が開かず上手に茶碗を持てない場合は、3-4歳から手の治療を開始し、使いやすい手に変え、運動発達を促進します。このような軽い脳性麻痺では、治療後に予想以上に早く運動機能が改善して、数回の治療で終了できる可能性があります。
 重症の脳性麻痺では、からだの痛み、良い姿勢がとれない、着替えなどの介護が大変なことがみられます。また、骨格変形が早期に進み、股関節脱臼や脊柱変形を生じます。このような場合でも、ボトックス®治療によって劇的に症状を軽快させることができます。残念ながら、骨格変形を成人期まで完全に予防することは困難ですが、毎日のストレッチと装具療法を併用すれば、骨格変形の進行を50%以上遅らせ、整形外科手術を5-10年延期させることは十分可能です。
 ボトックス®治療は、経口筋弛緩薬と比べ劇的な効果があり、かつ副作用の少ない比較的安全な治療ですが、4-6か月おきに反復して治療する必要があります。そのため、永続的なボトックス®治療の必要性が予想される重症の脳性麻痺の場合は、脊髄後根切断術やバクロフェン持続髄注療法への移行を検討します。

根津敦夫(横浜医療福祉センター港南神経小児科)2019年5月1日改変

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