Q11:重度脳性麻痺のこどもの筋緊張への対処について教えて下さい。
重度脳性麻痺の多くの場合、筋緊張が亢進して強い力が入り続けるため、1)楽に座わることや寝ることができない、2)思うように手足を動かせない、3)着替えや移乗の介護負担が大きい、4)疼痛、不機嫌や不眠をみる、5)長期的に手足や脊柱が変形する、6)呼吸障害や胃食道逆流症を合併する、などの問題が生じます。そのため、筋緊張を軽減する治療は、このようなこどもの生活の質や健康維持にとって大変重要です。ボツリヌス療法、脊髄後根切断術、バクロフェン髄腔内投与療法などの新たな治療は、筋緊張を劇的に軽減させ、上記の問題を大きく改善します。従来の経口筋弛緩薬が無効の場合には、これらの新たな治療をお勧めします。一方、すでに拘縮・変形がある年長児には、まず整形外科の矯正手術が必要となります。
1.経口筋弛緩薬
からだ全体の筋緊張が強い場合、最初に試みるべき治療です。ジアゼパムとチザニジンが比較的有効で、経口バクロフェンもしばしば投与されます。これらは中枢神経に作用するため、眠気やよだれなどの副作用に注意します。ダントロレンは筋肉に直接作用し、筋肉の収縮力を弱めますが、肝臓障害の副作用に注意します。
2.ボツリヌス療法
筋肉内にある運動神経の末端の働きを麻痺させ、筋肉を弛緩させます。薬液は注射した筋肉だけに作用します。筋肉の過剰な緊張が本人の運動発達を阻害したり日常生活での介助のしにくさにつながっているような場合には、下肢(つま先立ちやハサミ足など)、上肢(腕の曲げ伸ばしのしにくさや指の開きにくさなど)、頚部や背中(くびやからだの反り返りなど)の筋肉に対してボツリヌス療法が考慮されます。重篤な副作用は少なく比較的安全な治療ですが、治療効果は一時的で、投与量が少ないと2~3か月、充分量でも4~6か月位で効果が切れますので、4~6か月おきに治療します。
3.脊髄後根切断術
足の感覚神経を、脊髄に近いところで切断し、足の筋緊張を軽減する手術です。切断する神経は、運動神経ではなく、筋肉の収縮状態を伝える感覚神経ですので、運動麻痺は起こりません。ボツリヌス療法では改善が不十分な下肢の強い筋緊張に適応され、3~9歳の時期に手術します。一度手術すれば、永続的に効果が持続します。
4.バクロフェン髄腔内投与療法
バクロフェンの薬液が入ったポンプをからだに埋め込み、カテーテルを通じて脊髄周囲に薬液を送り、筋緊張を軽減させます。経口バクロフェンの1/100の量で有効なため、眠気などの副作用はありません。からだ全体に強い筋緊張がある、激しい運動の少ない小児に適応され、身長100cm程度の体格になれば導入できます。薬液の補充は毎3か月、電池切れによるポンプの入れ替えは毎6~7年に行います。副作用には、まれに金属アレルギー対応、カテーテルが閉塞した場合の発熱などがあります。
5.訓練を含めた一般的留意点
上記の治療は、筋緊張を軽減しますが、運動麻痺を治す治療ではありません。
からだは、たとえ柔らかくなっても、動かさないと関節の動く範囲が徐々に狭くなり、拘縮・変形を生じます。したがって、日々の充分なストレッチ、適切な装具療法や姿勢保持装置などは、治療後も欠かせません。
2022年12月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会
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