日本小児神経学会

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Last Update:2023年6月23日

小児神経Q&A

Q24:小児重症筋無力症の治療について教えて下さい。

 重症筋無力症の治療は,抗コリンエステラーゼ薬による対症療法と,免疫抑制療法,胸腺摘除術による原因療法があります。最近では終末補体阻害薬や抗胎児性Fc受容体(FcRn)抗体フラグメント製剤などの開発も進んでいます。急性増悪(クリーゼとも言います)した場合には,血漿浄化療法や大量免疫グロブリン療法なども有効です。小児期発症例は寛解率が高いことが知られており,純粋眼筋型では抗コリンエステラーゼ薬のみで寛解する例や,他の臨床病型でも,適切なタイミングに十分なステロイド薬投与などの免疫抑制療法を行うことで,多くが寛解すると言われています。また,眼筋型が多く,胸腺異常も少ないことから,思春期前には胸腺摘除が有効な例は少なく,免疫抑制療法が主体となります。小児は発達段階であることから弱視や,ステロイドによる低身長などに注意をしながら,治療をすることが必要です。

1)抗コリンエステラーゼ薬(臭化ピリドスチグミンなど)

 抗コリンエステラーゼ薬は,神経筋接合部でアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害する薬剤で,アセチルコリンを増やすことにより症状を改善します。即効性があるので眼筋型では第一選択となり,純粋眼筋型の一部は抗コリンエステラーゼ薬のみで改善することがあります。いずれの臨床型でも経過中,他の治療に加えて使うことも少なくありませんが,あくまでも対症療法であり,長期使用は避けることが望ましいとされています。

2)免疫抑制療法

 免疫抑制療法は,ステロイド薬やタクロリムスなどの免疫抑制薬により抗体産生を抑えることを目的としており,時間はかかりますが,全身型では主要な治療方法となります。

2-1)ステロイド薬
 眼筋型や潜在性全身型で抗コリンエステラーゼ薬では改善しない例,全身型ではステロイド薬が第一選択薬となります。ステロイド薬を急激に大量投与すると,MGの症状が悪化する「急性増悪」を招くことがあるため,内服は少量から開始し,漸増する方法をとり,特に全身型では気を付ける必要があります。近年,成人では,積極的にカルシニューリン阻害薬導入や,ステロイドパルス療法,血漿浄化療法,免疫グロブリン療法など 強力な非経口速効性治療を併用して,ステロイドの低用量使用(プレドニゾロン5mg/日以下)を目標としています。小児例では,60~70%がステロイド薬で寛解するという報告があり,適切なタイミングの導入で,体重換算で十分な量のステロイド薬を使用する方針(眼筋型1~2mg/kg隔日,全身型1~3mg/kg隔日)をとっており,成人の治療法との乖離がみられています。思春期以後発症例で,体格が大きく,成人発症例に近い臨床病型の例では,成人に準じた治療法をとるとよいでしょう。ステロイドパルス療法は,経口内服よりも早い効果発現,高い有効性に加え,長期的副作用が軽いという長所があり,近年,成人例ではよく使用されます。小児例にも有効という報告が複数あり,入院可能な施設では有効な手段の一つですが,「初期増悪」が強く,全身型の初期治療や球症状が出現している際には,先に免疫グロブリン療法を行うなどの対策が必要で,注意を要します。

2-2)免疫抑制薬
 ステロイド薬が無効の場合や,減量により症状が出現するステロイド薬依存の場合,副作用によりステロイド薬を減量せざるをえない場合,免疫抑制薬を導入します。最もよく用いられるのは,成人に保険適用のあるカルシニューリン阻害薬のタクロリムスです注1)。腎障害,耐糖能異常,筋けいれんなどの副作用はありますが,血中濃度の管理を行うことにより,比較的安全に使用できます。同じくカルシニューリン阻害薬のシクロスポリンは成人では多く使用されますが,腎障害などの副作用の観点から小児での使用は多くはありません。アザチオプリンはMGでの保険適用はなく注2),成人での使用は限られますが,小児期発症のMGでは古くからよく使用されます。いずれも小児期発症MGでの安全性が確立していないため,慎重な医学的判断のもと使用される必要があります。

注1)カルシニューリン阻害薬のタクロリムス,シクロスポリンはMGにおいて保険適用されていますが,厳密には成人例が対象で,小児での安全性は確立していません。
注2)小児期発症MGに対するアザチオプリンは,「保険診療における医薬品の取り扱いについて(いわゆる55年通知)」を活用した保険償還のシステムを利用した適応外使用が認められています。

3)胸腺摘除術

 胸腺腫が有る場合は第一選択となりますが,小児では胸腺腫は非常にまれです。成人では,非胸腺腫例でも胸腺摘除が有効というエビデンスがあり,50歳未満では推奨されています。小児では,思春期前発症例は眼筋型が多く,寛解率も高いことから優先順位は低くなりますが,思春期以後発症で,発症後1~2年内,抗AChR抗体陽性で,急性増悪を繰り返すなど,治療抵抗性の難治例全身型で推奨されます。以前は開胸手術でしたが,近年,小児においても胸腔鏡下にて手術が行われるようになっています。

4)免疫グロブリン大量点滴静注療法(IVIg)と血漿浄化療法

 難治例や,急性増悪(クリーゼ)した場合には有効な手段となりえます。血漿浄化療法は,即効性があり,確実性の高い方法で成人,年長児には適していますが,幼小児ではブラッドアクセスの確保が困難で,侵襲性が高いことから慎重な検討が必要です。免疫グロブリン大量点滴静注療法(IVIg)は幼小児でも比較的安全に使用可能であり,かつ2011年より保険適用となっています。

5)新規治療薬

 成人例では,抗体医薬などによる分子標的治療が導入されるようになり,抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブ,抗補体モノクローナル抗体エクリズマブが実臨床で使用されています。昨年には抗胎児性Fc受容体(FcRn)フラグメント製剤エフガルチギモドアルファが承認されるに至りました。これらの薬剤は現時点では小児に使用できませんが,近年小児への治療開発も進んでおり,近い将来,小児においても治療の選択肢が広がる可能性があります。

2022年12月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会

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