日本小児神経学会

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Last Update:2022年12月21日

小児神経Q&A

Q23:小児重症筋無力症とはどの様な病気ですか?

 重症筋無力症(myasthenia gravis; MG)は自己免疫疾患のひとつです。
 運動の指令が,脳,脊髄,末梢神経を経て筋肉に伝わる経路で,末梢神経の終わりの部分(終末)と筋肉の接着する部位を「神経筋接合部」と言い,信号の伝達がなされます。神経筋接合部では,末梢神経を伝わってきた電気信号が神経終末に到達すると,神経終末からアセチルコリンが分泌され,筋肉の表面のアセチルコリン受容体に結合することで筋肉に信号が伝わります。MGでは,この神経筋接合部において信号伝達に関わる蛋白に対する自己抗体ができることにより,神経から筋肉への刺激伝達が障害されます.小児期発症例では,抗アセチルコリン受容体(acetylcholine receptor; AChR)が標的となることが多く,成人例でみられる抗筋特異的チロシンキナーゼ(muscle –specific tyrosine kinase; MuSK)抗体が原因となることは稀です。抗AChR抗体は ,補体を介して神経筋接合部を破壊し,AChRの数を減少させることで,神経筋伝達を障害すると考えられています。抗体価が高い例に,胸腺腫合併など胸腺異常が多いことから,胸腺が抗AChR抗体産生に重要な役割を持つと以前から考えられており,胸腺摘除が治療法の一つとなってきました。現在では,胸腺の形成異常などがきっかけになり,リンパ球(T細胞)が機能不全を生じて,胸腺の上皮細胞で未熟なAChRを異物として認識して自己抗体を生じることが,病気の発端になると考えられています。

 一般的に,18歳未満発症例を小児期発症または若年性(juvenile)と呼びます。小児では比較的稀な疾患ですが,成人と同様女児に多く,我が国では5歳以下発症が多いことがわかっています。小児期発症例は成人と異なり,眼筋型が多い,抗体陽性率が低い,胸腺腫合併例が少ない,寛解率が高いなどの特徴があります。

 症状は連続運動により増悪し,休息により改善する易疲労性(つかれやすさ)を特徴とし,朝には症状が軽く,夕方に増悪する日内変動,または日ごとに異なる日差変動がみられます。瞼が下がってくる(眼瞼下垂),眼の位置の異常,物が二重に見える(眼球運動障害)など,眼の症状のみの眼筋型,飲み込みがうまくいかない球型,頚部や体幹,四肢の筋力,重症であると呼吸をする筋力が弱くなる全身型があります。さらに,小児においては,症状は眼の症状だけであっても,電気生理の検査(筋電図)では四肢に易疲労性が示される「潜在性全身型」という,我が国固有の分類もあります。診断は易疲労性を示す特徴的な臨床症状に加え,塩酸エドロホニウムという超短時間型の抗コリンエステラーゼ薬を投与することにより,症状が改善する(エドロホニウム試験)や,抗AChR抗体などの自己抗体の証明,筋電図で易疲労性を検出することで行います。体温が下がると神経筋接合部の伝達が改善するという性質を利用したアイスパック試験(瞼にアイスパックを数分あてることで症状改善)も簡易な検査として用いられます。ただし,小児では抗AChR抗体が約半数しか陽性になりませんので,時に診断は難しくなります。

2022年12月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会

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