日本小児神経学会

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Last Update:2022年12月16日

小児神経Q&A

Q92:デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の小児期の治療について教えてください。

はじめに

DMDは小児期に発症し、ゆっくりではありますが進行する疾患です。根本的な治療はありませんが、長年蓄積された知見に基づく包括的な治療を行っていくことで生命予後の改善、ならびに機能低下の進行を遅らせることができつつあります。また早い段階から筋ジストロフィーのことをよく知っている医師、専門家の関与が重要な疾患です。決してあきらめることなく、現在提供できる治療、ケアを継続的に行っていきましょう。

・ステロイド治療

Q27を参照ください。

・リハビリテーション

幼児期に足関節の動きに制限(拘縮:こうしゅく)が生じてくるので、制限が出現する前からストレッチ、マッサージ、装具療法などの関節可動域訓練を導入しましょう。本人が無理なく自律的に行う運動について制限は必要ありません。歩行機能が落ちてきた場合にはリハビリテーションの専門家と車椅子の導入について相談してください。歩行できなくなった後には肘関節や手関節の関節可動域を確保するために上肢の可動域訓練に関する指導を受けてください。(参考となるサイト https://www.ncnp.go.jp/hospital/guide/reha-MD.html)。

・心臓合併症

DMDにおいて心筋障害はいずれ生じると考えておいてください。ゆっくりと変化が生じてきますので、症状が出現しにくいのが特徴です。従って心臓超音波検査などを用いて定期的に心機能を評価してもらってください。心機能低下の進行を抑制するためにアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とβ遮断薬を投与することが広く行われています。現在は10歳までに心機能が悪くなくてもACE阻害薬を予防的に開始することが国際的に推奨されています。特に10歳以降は心臓評価を最低でも年1回行っていきましょう。

・側弯症

脊椎が進行性に、かつ3次元的に曲がってくるもので、DMDのように脊柱を支える筋力が弱い場合には思春期頃に側弯症が出現し、進行する場合が多いです。側弯症は予防が重要です、幼児期から姿勢管理の指導をうけてください。ステロイド治療も側弯症の進行抑制に有効なことが示されています。予防的な対応によって重度の側弯症を認めることは減っていますが、重度の側弯症となった場合には脊柱固定術と呼ばれる手術を行う場合があります。手術によって、側弯を矯正し、座位の安定が得られるなどの効果が期待できますが、大きな手術ですので、メリット・デメリットをよく把握していただいたうえで手術の可否を検討なさってください。

・呼吸器合併症

DMDの場合には慢性呼吸不全といって徐々に呼吸機能が低下してきますので、症状が出にくい、出たとしてもわかりにくいのが特徴です。肺活量検査や夜間の呼吸モニタリングを定期的に行い、マスク人工呼吸(NPPV)を適切な時期に導入する必要があります。適切な時期に肺や胸郭の柔軟性を維持するため、感冒時などに生じてくる排痰困難への対応のために適切な時期に呼吸ケアを導入する必要があります。具体的には介助者による咳の介助、アンビューバッグ(救命救急用の蘇生バッグ)を利用した深呼吸、咳の介助を導入します。

・栄養、消化管の問題

定期的に体重測定を行いその増減を把握してください。肥満は、身体活動量の低下、基礎代謝量の低下、ステロイド治療、エネルギー摂取量の過剰などいろいろな要因によって生じます。摂取エネルギー、食習慣の是正、栄養バランスの改善に関して定期的に指導を受けてください。病気の経過とともに今度は体重減少、やせが問題となる場合があります。エネルギー消費量の亢進(呼吸機能の低下時など)、摂食嚥下機能障害によるエネルギー摂取量の減少などいくつかの要因によってやせてきます。食物形態の工夫、補食・補助食品などを利用した食事を試みてください。十分量を摂食できずにやせが進行する場合、あるいは嚥下障害が重度の場合には胃管による経管栄養や胃瘻造設などを検討する必要があります。便秘を生じるリスクも高いので、幼児期からバランスのよい食事や排便習慣を身につける生活を心がけ、必要に応じて便秘薬の投与も受けてください。

(2022年1月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会)

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