日本小児神経学会

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Last Update:2022年12月16日

小児神経Q&A

Q90:脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)とはどのような病気でしょうか?

私たちは、筋肉を収縮させたり伸展させたりして身体を動かしています。身体を動かそうという脳からの指令が脊髄における運動神経細胞(脊髄の前の方にあるので脊髄前角細胞といいます)に伝わり、脊髄前角細胞から筋肉へ伸びている神経線維を通して筋肉に届くのです。その脊髄前角細胞が変性し、消失する病気が脊髄性筋萎縮症(SMA)です。体幹や四肢の近位部(体幹に近い部位)優位の進行性の筋力の弱さと筋萎縮が特徴です。
第5染色体に存在するSMN1遺伝子を病因遺伝子とする5q-SMAは、核酸医薬品ヌシネルセンナトリウム(商品名スピンラザ)、遺伝子治療薬オナセムノゲンアベパルボベク(商品名ゾルゲンスマ)、低分子医薬品リスジプラム(商品名エブリスディ)などの治療法の発展により、早期診断と早期治療の効果が注目されています。

1 病型分類とその特徴について説明します

SMAをもつ患者さんの年齢分布は乳児から高齢者まで幅広いですが、その9割以上は16歳未満、8割以上が2歳未満に発症する病気です。発症年齢と重症度により0型からIV型に分類されています。
0型:胎児期の発症、胎動が少なく、羊水過多を示し、出生時から人工呼吸管理が必要な場合が多く、四肢関節拘縮や四肢末梢の循環不全を示す最重症型です。

Ⅰ型:ウェルドニッヒ・ホフマン(Werdnig-Hoffmann)病、出生直後から6か月までの発症、体はやわらかく、自然経過では生涯坐位保持不可能です。体を動かさない、手足がだらっとして、泣き声が弱いことで気づかれます。舌の細かいふるえ(線維束性収縮)、息を吸った時にお腹が膨らみ胸がへこむ呼吸(奇異呼吸)を示します。母乳やミルクの吸いが弱く、飲み込む力が弱く、誤嚥(ごえん)することもあります。人工呼吸管理を行わない場合、多くは2歳までに亡くなるという急速な自然経過です。早期発見と早期治療が最も必要な型です。

Ⅱ型:デュボビッツ(Dubowitz)病、発症は1歳6か月まで。坐位保持は可能ですが、生涯、起立や歩行は不可能です。舌の細かいふるえ(線維束性収縮)、手指の振戦がみられます。思春期に側弯が著明になるため、それを予防するためのリハビリテーション早期介入や座位保持、治療のための脊柱固定手術が必要となります。

Ⅲ型:クーゲルベルグ・ヴェランダー(Kugelberg-Welander)病、発症は1歳6か月以降。自立歩行を獲得しますが、次第に転びやすい、歩けない、立てないという症状がでてきます。後に、上肢の挙上も困難になります。発症の時期は幼児期、小児期、思春期など様々です。思春期以降に車椅子となった場合は側弯の程度は軽微ですが、思春期以前に車椅子生活となった場合には側弯が進行します。できていた事ができなくなるという喪失感や不安感をもつこともあり、年齢に応じたSMAの理解と心のケアが必要です。

Ⅳ型:成人型、成人から老年にかけて発症し、緩徐進行性です。手の先に始まる筋萎縮、筋力低下、線維束性収縮がみられます。症状は徐々に全身に拡がり、運動機能が低下します。四肢の近位部、特に肩周りの筋の萎縮で初発する場合もあります。

2 診断について説明します

従来、筋電図、筋生検などを実施してから遺伝学的検査により確定診断をしていましたが、一刻も早い診断確定と治療開始の必要性から、遺伝学的検査の実施を優先することが薦められます。5~10mlほどの採血を行い、病因遺伝子のSMN1遺伝子、修飾遺伝子のSMN2遺伝子を調べます。遺伝カウンセリングをお受けになり、「SMAにおける遺伝学的検査」として保険収載されている検査としてお受けいただきます。
SMN1遺伝子における欠失または変異により0コピーであることで診断確定となります。SMN1遺伝子はSMNタンパク質の産生を司どっているため、0コピーの場合には、わずかに配列の異なるSMN2遺伝子由来の少量のSMNタンパク質しか産生されないのです。SMN2遺伝子のコピー数が多いほどSMNタンパク質の産生量が多いため、軽症となります。SMN1遺伝子が1コピーの場合には、小さな遺伝子変異がある可能性がありますので、塩基配列同定法による解析をお受けください。

(2022年1月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会)

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