日本小児神経学会

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学校における人工呼吸器使用に関する【ガイド】について

Last Update:2020年1月23日

―日本小児神経学会社会活動・広報委員会報告―

はじめに

 
 人工呼吸器を装着した状態でNICUや小児科病棟を退院し、在宅で生活する小児が増加し、平成27年からは3千人(19歳以下)を超えるようになってきた(平成28年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究(田村班)」)。 その結果、特別支援学校に在籍する人工呼吸器使用児も、文部科学省の調査によれば、平成19年の545人 から平成28年 の1,333人へと約2.5倍に増加している。(通常の小中学校に在籍する人工呼吸器使用児は、平成28年55人)。人工呼吸器使用児の就学に関して全国各地で対応が始まっているが、学校での受け入れに際しての対応は地域により異なっている。そのため、主治医・指導医などの医療専門家が適切に判断するためには、どのような資料を基にどのような観点からの検討が必要かについて全国で統一した基本方針が求められるようになってきた。

 平成28年6月3日(公布)児童福祉法の一部改正(第56条6の第2項)において、「地方公共団体は、人工呼吸器を装着している、障害児その他日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児が、その心身状況に応じた適切な保健、医療、福祉その他の各関連分野の支援を受けられるよう、保健、医療、福祉その他の各関連分野の支援を行う機関との連絡調整を行うための体制整備に関し、必要な措置を講ずるように努めなければならない。」 
と定められ、法律に基づいて「医療的ケア児」への支援・対応の協議等が各地域で始まっている。

ガイド策定の経緯

 日本小児神経学会では、平成28年6月に日本小児神経学会社会活動・広報委員会に、「学校における人工呼吸器使用に関するワーキンググループ」を設置して、特別支援学校で人工呼吸器使用児を受け入れる際にチェックすべき項目、支援するための体制・組織づくりまでを含んだガイドを策定することとした(高田ら、脳と発達2018;50:212-3)。ガイド作成の前提となる考え方として以下の6点を基本とした。なお、通常の小中学校に在籍する人工呼吸器使用児に対する、学校における受け入れ支援体制・組織等の整備は特別支援学校のそれと大きく異なるため今回は対象としていない。

1)人工呼吸器使用児童・生徒の学校での受け入れについては、ガイドを使用して情報収集し、それを元に個別・具体的に協議を進める。各地域において、校長、教育関係者だけではなく、医療者も交えた協議会を設置し、最終的な判断は、その協議会において個別の児童・生徒ごとに行うことを原則とする。
2)人工呼吸療法(気管切開下の侵襲的呼吸器、非侵襲的呼吸器の両者を含む)を必要とする児童・生徒も、家庭で安定した生活が行われていれば、子どもの精神的自立と社会参加の可能性を拡げていくためにも、できる限り家族が付き添うことなく特別支援学校へ通学できることを目指す。
3)自発呼吸の有無、呼吸不全の程度、知的障害の有無、気管切開の有無、喉頭気管分離の有無、呼吸補助療法の要否、必要とする吸引回数、急変のリスクなどに関しては、個別性が高いので、個々の児童・生徒の状況を慎重にチェックして受け入れ方法を決定する。評価の際には、子どもの状態だけではなく、各自治体におけるケアの整備状況をも考慮する。(各自治体は学校におけるケア体制の整備に努める。)
 本ガイドのチェック項目は各自治体が個別に評価する上での参考項目としてあげたものであり、全項目を整備しなければならないということではない。
4)基本的には、各学校・地域で実施されている医療的ケアの実施手順(申請、指示書、校内での検討、研修、医療的ケアの実施等)に従って運用するが、必要があれば、人工呼吸器使用児童用の書類を別途追加する。
5)通学や学外活動について、人工呼吸器を使用する場合は、他の医療的ケアを必要とする児童・生徒と比べて慎重な対応を必要とする点を考慮しつつ、将来、すべての希望する児童・生徒において通学・学外活動が可能となる方向を目指す。
6)災害時の対応についても、各自治体において体制整備が必要である。今回は、日常場面を想定したガイドを提言するが、今後、災害時における対応、体制整備についても議論を進めていく必要がある。

ガイドの活用について

 ガイド内容の詳細はこちらをクリック
 内容は、平成29年11月に設置された、「学校における医療的ケアの実施に関する検討会議」にも資料として提出・議論され、文科省の作成する看護師向けのテキストにも一部収載予定である
 小児神経科医は、このガイドを参考に、各事例について個別・具体的に協議し、特別支援学校における安全な医療的ケア実施体制整備に取り組んでいただきたい。

ガイドの内容

A.通学にいたるまでに実施すべき内容
1.必要な情報の収集
1)本人の評価(家族からの聞き取り、主治医からの聞き取り、本人の観察)
2)呼吸状態の評価
     (1)主治医からの確認事項   (2)家族からの情報

2.学校環境の評価
1)ハード面
2)ソフト面

3.研修の実施状況の確認
1)看護師に対する研修実施状況など
2)教職員に対する研修実施状況の確認

B.学校における人工呼吸器使用児受け入れを支援するための体制・組織に関する事項
1.各自治体の管轄部署(教育委員会等)への報告・相談体制の構築2.各自治体に医師、各学校における担当者の参加する協議の場(名称例;医療的ケア検討委員会・医療的ケア運営協議会)の設置、またはそれに替わる支援体制の整備
3.各自治体の管轄部署(教育委員会等)から各学校への助言・指導体制の構築
4.保護者への、管轄部署から各学校に行われた助言・指導内容に関する周知
5.外部の医療機関等との連携状況 (緊急時の対応を含む)

*学会誌「脳と発達」2019;51:43-51に掲載済

2018年10月25日

一般社団法人日本小児神経学会

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