日本小児神経学会

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Last Update:2024年1月22日

小児神経Q&A

Q94:神経発達症にはどのような疾患が含まれますか?

A 日本では発達障害は、発達障害者支援法により、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものと定義されていますが、ここでは、様々な発達の問題の併存も多く、発達障害≒アメリカ精神医学会の診断分類DSM-5による神経発達症として話をします。
 図が各神経発達症の関係図です。線で区切っていますが線の辺縁はぼやけています。また、この中での子どもの位置は発達や環境で変わっていきます。早期にこれらの特性を理解し、子どもにあったかかわりや発達を促す取り組みは大切ですが、子どもは変化していくという考え方が必要です。以上を前提に各神経発達症の特徴を伝えます。

1.自閉スペクトラム症(ASD)

 DSM-5による診断基準は、簡単に言うと「コミュニケーションの問題・対人関係の問題」と、「興味の限局、こだわり、常同行動」があることです。幼児期では指差しがない、視線が合いにくい、言葉の発達が遅れる、表情がちょっと乏しい、他児とうまくかかわれない、興味が他児と違う、こだわりが目立つなどで心配されます。「感覚の過敏、鈍麻、限定された興味」は必須項目ではないものの、多くのASDでは理解が必要です。
 音や光、におい、味、触覚の過敏などがあります。こだわりとも関係している場合もありますが、特定の食べ物しか食べなかったり、特定の衣類しか着なかったり、雷などの音に過剰に反応したりします。反対に痛みや吐き気、満腹感、のどの渇きなど身体の内部感覚には鈍感な場合も少なくありません。「想像力(見通しをつける力)の障害」は、DSM-5に明記されていませんが大切で、環境が変化したり、思い通りにいかなかったりするとひどく動揺することがあるため、環境やかかわり方を考えるとき理解が必要です。

2.注意欠如多動症(ADHD)

 DSM-5によれば、「複数の状況下における著しい不注意、多動衝動性で、能力の発揮や発達の妨げになっている状態」です。症状は12歳以下から現れているとされます。複数の状況下で症状があるというところが重要です。症状の強さ、凸凹もさまざまです。
 基本的な病態は、現在のところ、1)実行機能の問題、2)報酬系の問題、3)時間処理の問題、といった三つの経路の問題と4)安静時に活性化するデフォルトモードネットワークの切り替えの機能の悪さが想定されています。
1) 実行機能の問題のために、これまでの経過や先のことなど必要なことを考えて行動できない。また気分や覚醒レベルをコントロールする力の低下があります。
2) 報酬系の問題のために、少し先の報酬を考えて行動を調節できず、実行機能の問題とも関連して、待つことができない、我慢ができない、といったことが起こります。
3) 時間処理の問題は、時間を考えて行動できず、実行機能の問題とも関連して、見通しを持って行動できにくいことや段取りの悪さと関係します。
4) デフォルトモードネットワークの切り替えの機能の悪さで、作業や学習を行っていても、それとは関係が少ない様々なことを思い浮かべてしまいます。その結果、落ち着きがない、気分が変わりやすい、衝動的な行動がある、我慢ができない、気が散る、興味がないことには集中できない、ぼーっとする、反対に過集中で切り替えが難しい、物を失くしやすかったり忘れ物が多い、段取りを立てられず片付けられない、提出物が出せないといった様子が見られます。

3.知的障害(=知的能力障害(知的発達症/知的発達障害))

 DSM-5の日本語訳は知的能力障害です。それによれば、「発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的能力と適応機能両面の欠陥を含む障害」とされ、「継続的な支援がなければ、家庭、学校、職場、及び地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、及び自立した生活といった複数の日常生活で適応ができない」とされています。言葉の遅れや理解力の遅れがあり、声掛けへの応答もややゆっくりで、個別にわかりやすい指示や指導がないと皆と一緒に行動できないということで推測できます。

4.学習障害(≒限局性学習症/限局性学習障害)

 DSM-5では、限局性学習症として、「効率的かつ正確に情報を理解し処理する能力に特異的な欠陥を認める場合に診断される」とし、正規の学校教育の期間において初めて明らかになり、「読字や書字あるいは算数の基礎的な学習技能を身につけることの困難さが持続的で支障を来すほどであることが特徴」とされ、「職業活動を含むその技能に依存する活動を生涯にわたって障害する」とされています。
 大まかに読字障害、書字表出障害、算数障害があります。全般的な知的障害はなさそうであるのに、特定の能力が低いことで推測されます。

5.その他

 神経発達症には発達性協調運動症やチック症などの運動症群も含まれますが、チック症についてはQ60Q61で解説されていますので、ここでは発達性協調運動症/発達性協調運動障害について簡単にお伝えしたいと思います。DSM-5では、「協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習及び使用の機会に応じて期待されるものより明らかに劣っている状態」と定義されています。しばしば他の発達障害に併存し、幼児期から、ひどく不器用で、物をつかんだり鋏を使ったりが難しく、工作ができない、体操やお遊戯ができないといった状況で、当人も子どもながらにそのことを実感し、また友達からも指摘されて、早くから自己評価が低くなる原因となります。これは、将来の自信のなさにもつながりやすく、周囲の理解と本人なりの努力への評価が必要です。ほかの発達障害との併存も多く、自己評価が低くならないように早期からの工夫が必要です。
 なお、神経発達症には分類されませんが、反抗挑戦症も理解されるべき特性です。この特性も他の発達障害に併存することがまれではありませんが、DSM-5によれば、「怒りっぽく易怒的な気分、口論好き/挑発的な行動、または執念深さなどの情緒・行動の様式が同胞以外の一人以上のやり取りにおいて、少なくも6か月持続している状態」とされます。これがあることによって、友達を作りたくてもできず、周囲からは呆れられ、ますますいらだつことになります。どこかで適切な態度ではないとわかっていてもそうなってしまいます。
 周りはあおられず、冷静に時を待つことも必要です。症状は、発達により軽くなることが多いですが、周りから反発され続け孤立すると、二次的に症状が強くなることもあります。ただ、うまくすれば、このような反抗の気持ちは世の中を変える原動力になる可能性もあるという見方をすることも必要と思います。

(2023年2月 日本小児神経学会ホームページ委員会QA部会)

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