日本小児神経学会

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Last Update:2023年3月8日

小児神経Q&A

Q91:脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA) の治療法について教えてください

2021年現在、SMA治療薬として承認されているのは、承認された順番に、髄注薬ヌシネルセンナトリウム(スピンラザ)、遺伝子治療薬オナセムノゲン アベパルボベク(ゾルゲンスマ)、経口内服薬リスジプラム(エブリスディ)があります。いずれの添付文書にもありますように、SMAの診断・治療に十分な知識・経験のある医師のもと、処方される必要があります。
各薬剤の優劣性のデータはありません。患者や家族とよく相談し、入院が可能かどうか、患者のアドヒアランスなど、個々の条件を充分考慮し、安全に治療可能な方法を主治医が検討し、選択していく必要があります。以下に3剤の比較と個々の薬剤投与に関する留意点をまとめましたので、ご参照ください。

表. 3剤の比較
一般名 ヌシネルセンナトリウム オナセムノゲン アベパルボベク リスジプラム
販売名 スピンラザ髄注12mg ゾルゲンスマ点滴静注 エブリスディドライシロップ60mg
承認年 2017年 2020年 2021年
作用機序 SMN2 pre-mRNAをターゲットとするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)で、選択的スプライシングを修飾し、Δ7 mRNAからエクソン7を含んだ完全長mRNAの産生を促進し、完全長の機能性SMNタンパク質を増加 アデノ随伴ウイルス9 型のカプシドを有するヒトSMNタンパク質を発現する非増殖性遺伝子組換えアデノ随伴ウイルスベクターで、SMN1遺伝子の機能欠損を補充することで、SMNタンパク質を産生する SMN2 pre-mRNAをターゲットとする低分子化合物で、選択的スプライシングを修飾し、Δ7 mRNAからエクソン7を含んだ完全長mRNAの産生を促進し、完全長の機能性SMNタンパク質を増加
SMN2遺伝子コピー数 1コピー以上が必須条件
(1または4以上の有効性、安全性は確認されていない)
記載なし 1コピー以上が必須条件(1または5以上の有効性、安全性は確認されていない)
未発症者(出生前診断、新生児スクリーニングでの検出)への適応
対象年齢 年齢制限なし 2歳未満 2か月以上
特定の背景を有する患者への注意 ①腎機能障害者
②抗凝固剤又は抗血小板薬投与、出血又は出血傾向のある例
③早産児
①肝機能障害者
②抗AAV9抗体陽性
③投与前から心筋トロポニンIまたは血小板数の異常がある例
①早産児
②肝機能障害患者
③生殖能を有する者(妊娠の可能性のある女性または、そのパートナー、妊婦)
投与方法 髄腔内投与 静脈内投与 経口内服
  乳児型:初回投与後、2週、4週及び9週に投与し、以降4ヵ月の間隔で投与を行う
乳児型以外:初回投与後、4週及び12週に投与し。以降6ヵ月の間隔で投与を行う
いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与
60分かけて静脈内に単回投与する。再投与は不可。
副作用予防のため、プレドニゾロン内服を治療前後で併用する
1日1回食後に投与
投与量 乳児型:日齢により、9.6mg~12mg
乳児型以外:12mg
体重2.6kg以上に1.1×1014 ベクターゲノム(vg)/kg
13.6kg以上では、体重に基づき投与液量を算出
生後2カ月以上2歳未満:0.2mg/kg
2歳以上で体重20kg未満:0.25mg/kg
2歳以上で体重20kg以上:5mg/回
安全性検討事項 ・水頭症
・血小板減少
・肝機能障害
・心筋トロポニンI上昇
・血小板減少
・血栓性微小血管症
・網膜毒性
・胚胎児毒性
・雄性生殖能への影響
抗AAV9抗体陽性例への投与 不可

個々の投与に関しての留意点

(1)未発症例への投与

現在、出生前診断や新生児スクリーニングで検出された未発症例への投与が認められているのはオナセムノゲン アベパルボベクとヌシネルセンナトリウムです。ただし,SMN2遺伝子コピー数が多く、臨床病型が軽症と予測される未発症例におけるこれらの薬剤の投与が適切かは、今後議論が必要です。

(2)2か月未満の発症例

リスジプラム経口内服は認められていません。ヌシネルセンナトリウム、オナセムノゲン アベパルボベクのみが使用可能ですが、オナセムノゲン アベパルボベクは薬剤入手、環境設定に時間を要するため、緊急性を要する場合は、まずヌシネルセンナトリウムの投与を選択するのも一つの方法です。

(3)2歳以上の例

オナセムノゲン アベパルボベクは投与適応外です。

(4)脊柱変形

重度の脊柱変形を有する場合は、ヌシネルセンナトリウムの投与は、リスクを伴うことがあります。

(5)生殖能を有する例

成人例において、生殖能を有する患者の場合、リスジプラムは動物実験の結果(胎児毒性など)より、妊娠の可能性、または妊婦へは投与しないことが望ましいと明記されています。ヌシネルセンナトリウムは、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとされています。

(6)他剤への切り替え

現在使用している薬剤で、十分な有効性が得られていない場合、他の薬剤の追加、または切り替えが検討されます。ただし、現時点では、オナセムノゲン アベパルボベク投与後の他剤使用の安全性は確立していないことには留意する必要があります。今後、個々の薬剤において、薬剤追加、または変更時の安全性評価が必要となり、変更には慎重な検討が必要です。どのくらいの期間をあけて2剤目が投与可能かも、まだ十分なデータが得られていないのが現状です。

(7)進行例

いずれの薬剤も、永続的な人工呼吸が導入された例など、疾患が進行した患者における有効性及び安全性は確立していません。リスクとベネフィットを十分考慮して投与を検討し、投与した場合には、患者の状態を慎重に観察、定期的に有効性を評価し投与継続の可否を判断する必要があります。効果が認められない場合には投与中止の検討も必要です。

(2022年3月 日本小児神経学会広報交流委員会QA部会)

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